「配偶者控除」は配偶者のいる人を税金面で配慮する制度
よく「年収103万円以下」であれば「配偶者控除が受けられる」といわれます。しかし配偶者控除の基準が「年収103万円以下」とは税法のどこを見ても書いてありません。その誤解はなぜ生じるのでしょうか? 誤解を解きながら、配偶者控除をきちんと押さえましょう。
結婚退職=配偶者控除の対象というのも誤解のひとつです
配偶者控除や扶養控除とは、面倒をみなくてはいけない家族が多ければ多いほど生活が大変になることを配慮して、税負担が軽くなるというものです。
子どもなどの扶養親族が多いと学費もかかりますし、食費もかさみます。育児中の収入ダウンも避けられません。したがって、扶養親族がいない納税者といる納税者と比較した場合、扶養親族がいる納税者に一定の配慮をしてあげようというのが扶養控除の考えです。
※扶養控除の詳細はこちら>>年末調整や確定申告でよく聞く扶養親族とは
また、配偶者控除はこれを配偶者に当てはめたもので、配偶者がいる納税者に一定の配慮をしてあげようという考えから生まれたものです。一般的には納税者(夫側)、配偶者(妻側)とイメージしておくと理解しやすいでしょう。
配偶者控除の金額はいくら?
会社員の場合、年末調整で所定の書類に記載し会社に提出することで、扶養控除や配偶者控除が適用されます。
配偶者控除の金額は、下記の通りです。
- 一般の控除対象配偶者 38万円
- 老人控除対象配偶者 48万円 (その年12月31日現在の年齢が70歳以上の場合)
※配偶者が障害者の場合、配偶者控除の他に障害者控除27万円(特別障害者の場合は40万円、同居特別障害者の場合は75万円)を受けられます。
また、配偶者控除や扶養控除の申告には、「扶養控除等(異動)申告書」という書類が必要になります。
※書き方・記入例はこちら>>扶養控除等(異動)申告書の目的と書き方
配偶者控除の条件「年収103万円以下」は誤解!?
よく「年収103万円以下」であれば「配偶者控除が受けられる」といわれます。しかし配偶者控除の基準が「年収103万円以下」とは税法のどこを見ても書いてありません。正しくは「合計所得金額38万円以下」です。
なぜ、税法の正式な解釈である「合計所得金額38万円以下」より「年収103万円以下」のほうが一般的になってしまったのでしょうか。これは「配偶者の稼ぎを得る手段はたいていパートだろう」ということが前提だからです。
配偶者控除の条件が「年収103万円以下」なのは給与所得のみの場合
所得税の基本は、収入(一般的には年収)から必要経費(所得控除など)を差し引いて所得を求めるところからスタートします。
パートによる収入は、税務上、給与所得という所得区分となります。給与所得であれば給与所得控除(下記図表参照)として最低65万円差し引くことができます。
年収が103万円ちょうどの場合、所得は以下のように算出されます。
平成28年・29年と高額給与所得者には限度額が設けられています
- 103万円(給与の収入金額)-65万円(給与所得控除)=38万円(給与の所得金額)
パート以外に何も収入がないなら、この38万円が合計所得金額となり、配偶者控除の要件を満たすことになります。
つまり「年収103万円以下」という基準は、「配偶者の稼ぎを得る手段はたいていパートだろう」ということを前提に、逆算して求められたものなのです。
「年収103万円以下」でなくても配偶者控除を受けられる!?
「年収103万円以下」という基準が給与所得を前提としたものならば、配偶者控除を受けられる他の基準はないのでしょうか。
例えば、公的年金受給者の場合にはその基準は103万円よりも上がります。公的年金受給者の所得も、収入金額から「公的年金等控除額」(表参照)を差し引いて算出します。
収入金額ごとの公的年金等控除額
公的年金等控除額は、年金受給者の年齢が65歳未満と65歳以上とで次のように分かれます。
- 65歳未満 最低70万円
- 65歳以上 最低120万円
したがって、たとえば65歳以上の公的年金受給者の妻をもつ夫だと、
- 158万円(公的年金の収入金額)-120万円(公的年金等控除額)=38万円(公的年金の所得金額)
年収基準で見れば、103万円以下ではなく「158万円以下」が配偶者控除を受ける条件になるのです。
配偶者控除が受けられるその他の要件
以上、パートやアルバイト収入を得ている配偶者、および公的年金を受け取っている配偶者についてみていきましたが、その他の要件についても整理しておきましょう。
●婚姻の届け出がある配偶者であること
配偶者控除の対象とできる配偶者とは、婚姻関係のある配偶者です。いわゆる内縁関係の人、事実婚の人は含ません。
●納税者本人と同一生計であること
「同一生計」とは税法独特の言い回しなのですが、必ずしも「同居」でなくてもかまいません。子どもの就学や親の療養のため別居をしているケースであっても、生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には「同一生計」となります。もちろん、同居していて明らかに独立した生活を営んでいなければ「同一生計」として取り扱われます。
●青色申告の専従者給与等を受け取っていないこと
夫が個人事業を行っているなら、青色事業専従者給与を必要経費に算入できる場合があります。しかし、青色事業専従者給与の支給を受けた、あるいは白色事業専従者の対象であるといった場合には、配偶者控除は受けられなくなります。
「103万円以下の青色事業専従者給与の支給なら、必要経費の算入も配偶者控除も併用して受けられるだろう」と誤解している人がいます。注意しましょう。
「結婚すれば配偶者控除が適用される」という誤解
年の中途で結婚退職すれば「配偶者控除が受けられる」という誤解もあるようなので、説明しておきましょう。
所得税の基本的な考え方はあくまでも年収です。たとえば、6月のジューンブライドに備え、5月いっぱいで結婚退職した人がいるとします。この人の退職時の給与の合計が150万円だった場合、その時点で結婚退職したとしても、夫は配偶者控除を受けることはできません。
- 150万円(給与の収入金額)-65万円(給与所得控除)=85万円(給与の所得金額)
となり、「合計所得金額38万円以下」という基準から外れるからです。
税法上の扶養と社会保険法上の扶養は別モノ
また、もうひとつの誤解として税法上の扶養と社会保険法上の扶養とを混同している人も多く見受けられます。
税法上の扶養とは「控除対象配偶者である」ことや「扶養控除の適用を受ける」ことを指しますが、社会保険法上の扶養は「(給与所得者の妻として社会保険料が免除となる)第3号被保険者になる」ことを指すので、基準も手続きも関係官庁も全く別なのです。
いままでであれば社会保険法上の扶養の基準として年収が130万円を超えると(給与所得者の妻として社会保険料が免除となる)第3号被保険者」から外れ、「自身で保険料を負担しなくてはいけない第1号被保険者」になることだけを注意していればよかったのですが、平成28年10月より下記の要件にあてはまる方は健康保険と厚生年金が給与から差し引かれる改正がなされています。
- 勤務時間が週20時間以上
- 1ケ月の賃金が8,8万円以上
- 勤務時間が1年以上見込まれること
- 勤務先の従業員が501人以上であること
という要件です。
1ケ月の賃金が8,8万円以上を年換算するとおおよそ106万円になることから巷では「106万円の壁」と呼称されていますが、社会保険法上の扶養扱いになるための新たな基準といっていいでしょう。
38万円超でも配偶者特別控除が受けられる
なお、税法上の配偶者控除は合計所得金額38万円以下(給与の年収でいうと103万円以下)が対象要件です。しかし控除対象配偶者から外れてしまうと、途端に税務上、全く控除が受けられないかというとそんなことはありません。
合計所得金額が38万円超76万円未満(給与の年収でいうと103万円超141万円未満)の場合、配偶者特別控除の適用を検討してみましょう。
※書き方・記入例はこちら>>配偶者特別控除申告書の目的と書き方
2018年(平成30年)以降配偶者特別控除が大幅拡大
この配偶者控除および配偶者特別控除に2017年税制改正で、見直しがなされています。税制改正前と税制改正後を比較してみましょう。
配偶者控除・配偶者特別控除の改正イメージ図(出典:国税庁)
これを見てまず、わかるのは
■配偶者本人の所得要件は何ら変更がされていないこと
と
■配偶者特別控除の所得要件の適用幅が拡大されていること
です。
納税者の所得により差がつく新型配偶者控除・配偶者特別控除
もうひとつ改正点のポイントは、納税者(下図では夫)の所得要件により、控除対象配偶者として配偶者控除を受けることができる額に差がついたということです。
納税者の所得により差がつく配偶者控除(図表:筆者作成)
納税者の所得金額が900万円以下であればいままでと同じ控除額を受けられるのに対し、納税者の所得金額があがるのに連動して所得控除額が逓減され、所得金額が1000万円超の場合には、配偶者控除の適用から外れてしまうのです。
これは配偶者特別控除も同様で下図のようになります。
納税者の所得により差がつく配偶者特別控除(図表筆者作成)
配偶者控除や配偶者特別控除の見直しのポイントをとりまとめると
- 配偶者控除の上限が拡大されたのではなく、配偶者特別控除の適用幅が拡大
- 納税者の所得金額が増えれば増えるほど所得控除の適用幅は逓減
- 納税者の所得金額が1000万円を超えると配偶者控除も配偶者特別控除も適用外
となります。
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平成30年以降から適用されるということは平成30年分の年末調整から給与所得者の扶養控除等(異動)申告書等の様式についても変更されることがすでに国税庁から発表されています。
税務行政に関係するものだけでなく、給与計算を行う実務従事者についても今後、留意しておく必要があります。
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