子育て色々

お迎えラッシュは深夜2時 「夜間保育」の真実

投稿日:10月 5, 2017 更新日:

夜間保育所に子どもを預ける親は、霞が関の官僚から医師、看護師、マスコミ、水商売と、驚くほど幅広い。皮肉にも、保育所では晩ご飯を食べて、お風呂に入り就寝と、規則正しい生活が実現できる。小さな寝息が聞こえてくるそこに、ニッポンの縮図を垣間見る。記者が現場を歩いた。

東京・新大久保のコリアンタウンには、ハングルの看板を掲げる韓国料理屋に交じって、ネパールやタイ、台湾料理の飲食店が増え、通行人も多国籍だ。

繁華街から一本道を入った場所に、24時間態勢の認可保育所「エイビイシイ保育園」はある。

深夜11時50分。この日、お迎えが深夜から朝7時を回る子どもたちは0歳児から6歳児まで26人。消灯された部屋からは、寝息がかすかに聞こえる。

ピンポーン。インターホンが鳴ると、夜勤の4人の保育士らが、一斉に立ち上がる。一人は、寝ている子どもを布団から抱き上げ、一人は子どものリュックと荷物を素早く取る。

「おかえりなさい」

もう一人は、笑顔で母親を迎えた。「食事のときに、スプーンに興味を持ってつかんでいましたよ」

園で過ごした子どもの様子を丁寧に伝え、母親と子どもを見送る。0時を回ったころ、再びインターホンが鳴った。外国人の母親だった。4歳の女の子は、目をこすりながら、「ママ今日は早いね」と玄関に向かう。いつもは午前3時過ぎだという。保育士の大橋格さん(35)が、「ちゃんと寝るんだよ」と送り出した。

お迎えラッシュは深夜2時ごろまで続く。

歌舞伎町やコリアンタウンに近く、親は外国籍や職業も飲食関係が主かと想像しがちだが、実は、霞が関の官僚から医師、看護師まで、驚くほど幅が広い。

1983年に夫の片野仁志理事長と新宿・職安通りの一室で園を開設し、現在の場所に移転するまで「新宿の肝っ玉母さん」として園を切り盛りしてきた。

「東京医科大学病院に東京女子医科大学病院、慶応義塾大学病院。新宿区は大病院が集まっているから、医者や看護師の子どもも多い。病院の保育所は深夜は開いていないのよ」

夫婦そろって霞が関の官僚という親もいた。北朝鮮によるミサイル発射で、「お父さんが忙しくなる」とぼやいた子どももいたという。前出の大橋さんも「国会が始まるとお迎えが深夜になることもあります。これから選挙ですから、また忙しくなる人もいるかもしれない」と話す。

マスコミ勤務の親を持つ子どもも不規則になりやすい。「親がクタクタに疲れて、お風呂や夕食を省いて子どもが寝てしまうこともある。でもここに来れば、夕食を食べてお風呂に入って、午後8時半には就寝と、規則正しい生活ができる」

そこで実現したのが、9月30日公開の映画「夜間もやってる保育園」だ。

「夜間の保育所といえば、子どもの死亡事故などで報道される無認可の託児所やベビーホテルの印象が強かった。真摯(しんし)に取り組む認可保育所があることを片野さんの手紙で知り、興味がわいたのです」

昨夏から1年間かけて「エイビイシイ保育園」のほか、沖縄の「玉の子夜間保育園」、北海道の「すいせい保育所」、新潟の「エンジェル保育園」など各地の夜間保育所に密着。どの園も個性豊かだ。

エイビイシイ保育園の片野園長は、「滞在時間が長いから体にいいものを食べてほしい」と、有機栽培や無農薬の食材を使う。

「広島にいい鶏肉があると聞けば、現地に足を運び、自分の目で確かめます。『高いでしょ?』とよく聞かれますが、昼と夕食とおやつで1日700円に収まるんですよ」

子どもたちは風邪を引かなくなり、アトピーの子も減ったと感じるという。

地方の園は地域性や生活の背景も都市部とまた違う。たとえば離婚率が高いと言われる沖縄の保育所について、

「大阪など都市部で子どもを授かり、シングルマザーになって故郷に戻ってきた母親も珍しくない。それでも地域で助け合う中で、子どもを育てられる、昔ながらの人間関係が健在な土地における園のありかたは興味深いものでした」

「水商売」の母親が少なくない北海道の保育所は、設立の背景が興味深い。当時の市長が認可の夜間保育所の設立を公約に掲げて当選したのがきっかけだという。

夜間の認可保育所からはじかれる親子がいるのも現実だ。

「認可保育所への申し込みには、自治体への書類提出が必要だ。しかし、風俗店やキャバクラで働く親の場合、店が就業証明書を出さず、自分で書類を書くことが面倒だと感じてしまうこともある」(同)

結果、手続きの簡単な無認可の保育所に風俗や水商売の親の子どもが集まりやすい。

「うちに子どもを預ける親は、風俗嬢やキャバクラ嬢、チャイナクラブに勤める母親がほとんどです。中国やアジア系の子どもも多く、『区役所から紹介された』と言って来日直後の外国人も訪ねてきます」

現在通うのは0歳から小学校5年生まで28人。深夜まで経営する学童保育所は極めて少ない。そのため、放課後から通う卒園児もいる。

「昼の保育園や小学校が終わるとうちに来て朝まで過ごす。まるで園に住んでいるような子もいますよ」

夜9時半を回ったころ、0歳児と小学生を預ける両親が現れた。木村副園長が記者に耳打ちする。

「迎えに来るのは、2日後ですよ」

園は2泊3日以上預ける親は育児放棄する可能性が高いとして、区に連絡する。放っておけば預けっぱなしの親が出るからだ。この園では、木村副園長や職員が親代わりだ。木村副園長は子どもと一緒に小学校の体育着を買いに行き、学校の担任から電話を受けることもある。

小学5年生の女の子は、「ピアノの発表会や授業参観に、お母さんの代わりに保育園の先生が来てくれた」と無邪気に話す。

すべてボランティアだ。木村副園長がつぶやいた。

「認可外の保育所はひどい場所だと偏見も強い。でもね、自宅にひとりで過ごせば、ご飯も食べられず、危ないこともあるかもしれない。それよりは、ここにいてくれたら、それでいいと思うんですよ」

明かりの消えたカーテンの向こう側から、スースーと小さな寝息が聞こえてきた。

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